「04:甘える ロク←アレ」
刹那が、羨ましかった。
「おう刹那、ちゃんと食ってるか?お前、育ち盛りなんだから、食わないと背ぇ伸びねえぞ?」
「・・・・・」
返事も反応もせず、刹那は黙々とフォークを動かす。またロックオンも返事など最初から求めていないのか、にまっと笑って食堂を出て行く。その後をハロがぴょんぴょん跳ねて、付いていく。
何のことはない、普段の光景。
ロックオンは面倒見の良い、気配りの出来る大人。
マイスター達の実質上のリーダーであるロックオンが、マイスター最年少の刹那を気にかけるのは、ごくごく自然の成り行きだった。
加えて、彼はどうやら刹那を、歳の離れた手の掛かる弟とでも思っているのか、何かにつけて進んで世話を焼いている。と、アレルヤの眼には映った。
「刹那お前、髪の毛伸びてきたなぁ。切ってやろうか」
「刹那、これクリスティナに貰ったんだけど、一緒に食うか?」
「おい刹那、暇なら本貸してやるから、部屋に来いって」
ヘタをすると一日一言も話さない刹那に、話しかけるのが自分の役目だと思っているのかもしれない。
勿論、刹那は『うん』とも『すん』とも言わない。
軽く無視する時もあれば、頷いて付いていく時もある。
それを、何時も自分は傍で眺めている。
正直、刹那が羨ましかった。
ただ、そこに存在しているだけでいいのだ。
何もしなくても、ロックオンにかまってもらえる。
ああやって、刹那のように接してもらいたいと思っている自分に、アレルヤはひっそり笑った。
アレルヤとて、ロックオンに、蔑ろにされているとは思っていない。
ただ、歳が近いせいなのか、身長が変わらないせいなのか。
ロックオンはアレルヤを年下扱いしない。同じ目線の高さで、話をする。それはアレルヤを『一人の男』として尊重してくれている証拠だと分かっている。
刹那と自分とでは、求められているモノが違うのだ。
それも重々承知している。
ロックオンに、嫌われたくない。彼を困らせたくない。
だから、彼の望んでいるであろう、彼に都合のよい『大人で物分りの良いアレルヤ』を、演じているに過ぎないのだ。
でも、本当は違う。
ロックオンが思っているよりも、自分はずっと未成熟な子供で。彼が弟のように思っている刹那よりも、精神的には幼いかもしれない。
身体だけは、大人だから、皆、誤解しているだけで。
何時だって寂しくて、何時だって――一度でいいから甘えてみたい。
けれど、今の関係が怖くて、結局それは実行できずにいた。
刹那のように、かまって欲しいと言ったら、ロックオンはどんな顔をするだろう。
きっとにまっと笑って「そーかそーか、寂しいのか」と、髪をぐりぐりと掻き乱していじり倒してくれるに違いない。
それは嬉しくて、楽しいことだと思う。
―――ロックオンは、多分、変わらない。
関係が壊れるとしたら、それはロックオンからでなく、自分からだ。
彼に甘えたい。
でも、甘えすぎて、そのせいでその後、彼に拒絶されたら?
それがとても恐ろしい。
他人に拒絶されることには慣れていても、やっと手にいれた居場所で、自分を人として受け入れてくれた彼に拒絶されたら。
「おい刹那って、聞いてんのかお前」
「・・・・・」
今日も今日とて、ロックオンが一方的に、黙々と食べる刹那に話しかけている。
きっと自分は、拾ってくれる誰かを待つ、捨て犬のような目をしている。
今は沈黙している片割から、厳しい一言を貰う前に、ここから離れたほうがいい。
二人を斜め横に見ながら、アレルヤはトレーを手に椅子から立ち上がった。
続く