「抱きしめる腕」

 

 

宙に帰ったティエリアを見送り、刹那とも別れ、二人は無人島の隠れ家(と言うには少々語弊があるが)に戻っていた。
「・・・・・・・」
南国の、眩しい程の陽光が溢れる島の地下。冷たい暗闇の内、愛機が静かに眠っている。
硝子越し、アレルヤは穏やかな灰色の眼でそれを見つめていた。
この、憂いを含んだ表情の青年が、今、世間を騒がせているガンダムのパイロットなどと、本人を前にそうだと言われても、直ぐには頷けないだろう。
普段のアレルヤは、物静かな何処にでもいる青年だ。
キュリオスの隣には、もう一体、デュナメスが横たわっている。
丁度、自分の横にパイロットのロックオンが居るように。
「何だか、寒いねえ」
そう言いながら近づいてきた男は、少しも寒そうな素振りも見せず、笑みさえ浮かべている。
アレルヤは小首を傾げた。
隠れ家の設備は、通常は最小限しか稼動していない。空調も、空気が澱まぬ程度にしか動いていないから、寒いと言うほどエアコンが効いているなどと、ありえないのだが。
しかし、自分は寒いと感じないだけで、もしかしたらロックオンは違うのかもしれない。
「室温、上げましょうか」
だが、訓練で暑さや寒さへの適応力・耐久力が高くなっているのは、自分だけでなく、ロックオンもだということを、アレルヤはすっかり失念していた。
空調を調節するため、パネルに向かおうとするアレルヤの腕を取り、動きを止めると、背後から腰の辺りに両腕をまわす。
「ロックオン?」
「そうじゃなくてさ・・・温めてくれない。丁度、お子様も、煩い小姑もいないことだし」
いいでしょ?
抗い難い美声で囁いた後、ロックオンは絶妙な曲線を描く顎を、アレルヤの肩に乗せて、腰の辺りをよしよしと撫でる。
その、手の動きもあいまって、アレルヤの頬が急速に朱色に染まった。
「ね?」
駄目押しと、ロックオンの唇がアレルヤの首筋の、やわらかい部分を撫でる。
本気で抗えば、容易く解ける腕の中から、動かない自分。
動けない自分。
確か、はじめての時もそうだった。
「僕は、貴方が、いいのなら・・・」
「じゃあ、決まり」
行きましょう。
腰を撫でていた手で、アレルヤの手首を握ると、薄暗い廊下の向こうに歩みだした。


続く