「抱きしめる腕 A」
最低限の照明しかない、薄暗い廊下を、手を引かれながらいくらか早足で歩く。
ロックオンは、何をそんなに急いでいるのだろうと思う。
如何に自分達が指令待ちの身としても、ここまで急ぐ理由がアレルヤには思い浮かばない。
『ドコヘイク、ドコヘイク』
二人の足元を飛び跳ねるハロを蹴飛ばさないよう、脚を裁く。丈夫に出来ているから、多少乱雑に扱おうが壊れる心配はないと知っていてもだ。
この人に、尊敬に似た気持ちを抱いていた。
パイロットとして、腕は超一流。
自分とて、引けを取っているとは思わないが、射撃手としては一歩及ばない。
何よりアレルヤを惹きつけたのは、華やかな容姿でも、操縦技術でもなく、この男の人柄だった。
マイスター達は強烈な個性の持ち主ばかり。組織の枠として歪ながら形を保っていられるのは、スメラギの力量だが、ロックオンの担う所が多いのではないかと、アレルヤは思っている。
自分達はバラバラだ。
それが悪いと誰も思っていない。故に同じ場所に居ながら、皆、違う方向を向いている。
特に、刹那・F・セイエイは扱いが難しい。
ここぞとばかりに、皆してロックオンに御守役を押し付けているが、口では何だカンダ言いながらも、しっかり面倒を見ているあたり、根っから面倒見が良いのだろう。
この人が居てくれて良かったと、口には出さないが、アレルヤは心の中で何度も思ってきた。
だから、なのかもしれない。
回数は決して多くないが、誘われれば、こうして素肌の熱をうつしあう。
この人が、嫌ではないから。
なのに、肌を重ねるけれど、恋や愛と名の付く、分かりやすい関係でなく。
甘い言葉も態度も、自分は必要とせず、この人も口にしない。
でも、相手の優しさは十分伝わってくるのだ。
この人と自分の間には、一方通行でない想いが確かに存在するけれど。
こんな間柄を何と言い表したらいいのか。(誰かに問われることなど、ないのだけれど)
ロックオンが使っている部屋に連れ込まれると、硬い寝台に押し倒されてブーツを脱ぐ間もなく、いきなりシャツを捲りあげられる。
胸の上まで一気に露わにされると、先刻首筋を撫でた唇が、左の乳首に噛み付くように吸い付いた。
「ちょ・・・ロック・・・お・・・ン・ん・・」
ちゅぷ、ちゅぷと、たっぷりの唾液と共に甘噛みされて、吸い上げられて、また、甘く歯を立てられる。
その間も、両手は忙しく動いていて、バックルの鳴る、カチャカチャという金属の触れ合う音が、冷たい部屋に響く。
ジッパーを下げられて、大胆に侵入してきた手が茎を強く握りこんだ。
反射的に息が止まる。
大きく、上下に扱かれと、どくどく、跳ね上がった鼓動に、一瞬、胸が軋むように痛んだ。
「っ、・・は・・・」
視界の端にうつるのは、相手の頭部だけで、表情は見えない。
手荒に扱われるのは、女でないから別に構わない。
けれど、せめて。
「もう、少し・・ゆっくり・・・」
先走る快感に、身体の大半が付いていけてない。
触れられている部分だけが、痛いほど感じているだけ。
熱がまわりきらぬうちに相手を受け入れるのは、かなり苦痛を伴う行為で、出来るなら何時下りるとも知らぬ任務に、支障をきたさぬ程度におさめたい。
「悪い。俺も、そうしたいのは山々なんだけど」
ロックオンが顔を上げると、薄闇に翠緑色の双眸が輝いた。
「時々、お前さんの声が擦れるくらい、一晩中啼かせてみたいよ」
古の砂漠の民が至上の、天上の色とした、こんこんと湧き出す、濃く澄んだ泉の色。
生命の色。
見入っていると、翠緑色が近づいてくる。
重ねられた唇を、気がつけば貪るよう深く、口づけていた。
誘ってくるこの人よりも、実は自分の方が欲しているのだと、思う。
常に自分は、渇いて、飢えて。
「ロック・・」
「でも、ほら、早くしないとさ・・」
「ふ・・・、っ、ぁ・・っ」
容赦なく擦りあげられて、かたく凝る茎に集まった欲が、解放を求めている。
背中にぎこちなく添えていたアレルヤの手が、ジャケットを掴んだ。
眼の奥に、閃光が弾けて、散る。
ああ。
宙の闇に消えていく光の如く、登りつめた意識が落ちていく浮遊感。それを、アレルヤはあまり好きではなかった。
続く