注 リジェネとティエリアが双子のような存在だったらという捏造です。

 

「02:睨む  リジェネ+ティエリア」

 

 

雨粒が、ダークグレーの傘を優しく打つ。
水気を含んだ前髪が下がり、眼鏡にはりつく。
髪も服も、そして心も、冷たくて重い。
地上が嫌いだった。
身体を縛る重力も、一定でない湿度も、自分には不快なだけで。
必要に迫られなければ、雨の日に出歩くことなど考えられなかったのに。
靴も、ズボンの裾も、平気で濡らして、雨の日を選んでこの場を訪れていることに、今日、漸く気がついた。
この前訪れた時も、その前も、朝から冷たい雨が降っていたのだ。


広々とした墓地を抜け、石畳に辿り着いた時に端末が鳴った。
のろのろとした所作で取り出し、大して確かめもせず、通信をオンにする。
自分に連絡を寄こしてくるものなど、CBのメンバー以外いないのだ。
音声だけでなく、映像がディスプレイから浮かび上がった。
『君は雨が嫌いなはずだったろう。そんなところで何をしているんだい』
ティエリア・アーデ。
「・・・・・」
そこに、自分と同じ顔がうつっている。
鏡を覗き込んだかのように、同じ顔かたちをしたモノが、いる。
ただ、髪型だけが異なるだけで。
誰だと、問う必要はなかった。
存在するだろうことは、薄々分かっていたのだ。こうして言葉を交わすことは、はじめてだが。
薄い色のゆったりとした服を身につけ、嫣然と微笑む自分を、ティエリアは無言で見つめる。
CBの再建は、ヴェーダ抜きで行ってきた。
なのに。
自分の端末を突き止め、連絡を寄こしてきた。
相手の真意を、危険性を考えて当然なのに、思考に霧雨がかかったように、ぼんやりとしたまま。
重かった。
髪も、黒い服も、心も、重くて。
何も考えられない。
―――あの人のこと以外。

『無様だね』
心を見透かして、紅い眼が笑う。
『僕が誰なのか、分かっているのだろう』
「・・・・・」
『僕と君は、今でこそこんなに立場が異なってしまったけれど、もしかしたら、僕が君で、君が僕だったのかもしれない』
「・・・・・」
だから。
『今から、僕のところにこないかい』
全てを捨てて、何もかも忘れて。
『君の存在は、本来、こちら側だと思うのだけれど』
「・・・莫迦なことを」
『そうすれば、煩わしいことから開放される。少なくとも、そんな無様な顔を、晒すことはなくなる』
見ていられないね。
と、眼鏡にかかる前髪を指で梳く自分を、ティエリアは睨め付けた。
「断る」
しかし、言葉に覇気はない。
会話を交わすたびに、虚しさが積み重なっていく。
断ることなど、分かりきっているだろうに。
自分との、不毛な言葉遊びだ。
悪趣味でしかない。
「私は、CBのガンダムマイスターだ。これまでも、そしてこれからも」
酷く疲れを感じて、ティエリアは通信を切ろうと指を動かした。
その前に、微笑みをたたえた薄い唇が動く。

『―――ロックオン・ストラトスは、そんなに良かったのかい?』

全身の血液が逆流したように、耳の奥にそのうねりが聞こえた。
世界が、一瞬で紅に染まる。
侮辱されたと、思った。
あの人と、あの人への想いを。
「貴様」
端末を持つ手が、ぶるぶるとふるえる。
もうひとりの自分を、ティエリアは睨む。
視線に、燃え上がらんばかりの殺意を込めて。
くすくす。
やわらかく波打つ紫の髪が揺れた。
『彼と寝たワケでもないんだろう?』
「下衆ッ」
『ロックオン・ストラトスにしたら、棄てられた飼い猫を哀れんで撫でた程度だろうに。なのに、どうしてそんな風になれるんだい。僕には理解不可能だね』
「うるさいッ」
端末を石畳に投げつけたい衝動に、ティエリアは必死に耐えた。
そんな言葉は、聴きたくない。
『分かっている』
分かっているのに。

ねえ、気づいている?
『今の君は、まるで、人間のオンナみたいだよ』
人間でもないのに、人間みたいに感情に振り回されて。
無様を通り越して滑稽だと、白い貌が嘲笑う。
もうひとりの自分が、笑う。
『愛だの、恋情だの、所詮僕等には理解できないモノに、酔ったフリをして』
人間のフリをして。
『気持ちが悪いよ』

 

雨粒が、いつの間にか勢いを増して。
石畳に落ちたダークグレーの傘を、強く打つ。
髪を濡らし、頬を伝うのは、雨。
決して涙ではないと、肩をふるわせて。
立ち尽くした。

 

 

片思いの乙女ティエリア三度。泣かせてばっかりです。
二期のこの人はこんな感じじゃ駄目ですか。
相手をリジェネにするか、ネーナにするかで、ちょっと考えましたが、ネーナは少なくとも自分を人間だと思ってたっぽいので、かなり無理があると思いながらリジェネにしてみました。
捏造捏造。
でも、リジェネって、ティエリアをどう思ってるんだろう。