「03:口付ける  アレライ」

 

 

予告もせず、いきなりくちづけた相手の拒絶が、唇から伝わってきた。

 

「・・ん、んーーっ」
腕の中から逃れようとする身体を、強く抱きしめる。
まるで、全身の毛を逆立てた猫のようだ。
噛み付かれる前に唇をはずし、アレルヤは彼の名を呼ぶ。
四年の間、心の中で幾度となく繰り返した名を。
「ロックオン」
逢いたかった。
二度と、逢うことはないと思いながら、どうしても諦めることが出来なかった。
「ロックオン」
抱きしめたまま、強張った身体を後のベットに押し倒す。


何を。
と、戸惑う彼を置き去りに、耳の付け根に吸い付き、上着を脱いだ制服のシャツの上から胸を弄れば、戸惑いははっきりとした抵抗に変わった。
「よせっ、・・・やめろっ」
必死に自分を押しのけようとする両手を、掴む。
その手首が、心なし四年前より細くなったと思った。
身体も、ひとまわり細いような気がする。
唇を重ねた時も感じた、僅かな違和感。
当然だと思いながら、アレルヤは彼の蒼と碧が混在する透明な眼を覗き込む。
そして、問う。
「どうして?」
彼の抵抗が、とまる。
「・・・どう、してって・・・」
「だって。あなたは、ロックオンなんでしょう?」
「・・・・・」
まさか、そんな科白がかえってくるとは思わなかったのだろう。
可哀想に、混乱しているだろう彼に薄く微笑んで、アレルヤは掴んだ両手を彼の頭上で、左手ひとつででひとまとめにし、シャツの内側に、するりと手を忍び込ませた。
「あっ」
脇を軽く撫でただけで、びくんと跳ねる。
「感じやすいのは、変わらないんだね」
「や・やめっ・・・、ぁっ」
肌が、ざらりとするのは、総毛立っているからだろうか。
こんな風に、同性に触れられることなど、はじめてなのだろう。
構わず、アレルヤは濃い藍色のシャツをたくし上げて、つんと上を向いた乳首を指の間に挟んで、すりつぶす。
「ぃっ・・・、やっ・・・」
声を飲み、息を殺して。アレルヤの与える愛撫に耐えている。
それでも、小刻みにふるえる身体。
「ロックオンは、ここを舐めながら、下を弄られるのがすきだったよ」
「・・・ぁ、うっ」
聞きたくないと、強く、眼を閉じた顔を、左右にふる。
やわらかく波打つ髪が、シーツをうつ。
「こんな風に」
反対側の乳首を口に含んで、軽く歯を立てて、ズボンの上から下肢の中心を、さすった。
じれったいほどに、弱く。
「んん、あっ」


酷いことをしている。と思う。
『この人はロックオンじゃない』
分かっている。
分かっているのだ。
どれだけ似ていても、声が、発する言葉の訛りが一緒でも。
流れている血が同じでも。
仕草が違う。
眼差しが、違う。
―――唾液の味が違う。
『あの人は死んだ』
目的の為に生き、家族の復讐の為に、命を賭して――そして、還らぬ人となった。
『僕を置いて』


『好きだ』
と、抱きしめてくれた。
肌を重ね、夜を重ね。
愛していると、囁いてくれたあの人が好きだった。
けれど。
『あの人の心に、僕の居場所は無かった』
引き止めるだけの、存在にはなりえなかったのだ。
こんなにも、愛していたのに。

 

――ヒッ。
短い叫びが、凍りつく。
可哀想なほど、がたがたとふるえる白い肢体に、アレルヤはくちづけを落とす。
身に着けていたものを全て剥ぎ取った、なめらかな裸体を無理やり押し広げて、アレルヤは楔を穿つ。
滾る熱の先端を食い込ませて、息を吐いた。
狭くて、きつい。
「・・・っ、ロックオン、ちから、抜いて・・・」
無理な注文だ。と言っていて思う。
この人は、本当にはじめてなのだ。
はじめてなのに、蕩けてもいない身体なのに。
ぼろぼろと固く閉じた眼から涙が、あふれるのを見ながら、先を飲み込んだまま、拒絶する固く閉じる襞を、アレルヤは指先でふれる。
ぬるりと指を濡らしたのは、淫液ではなく、鮮血。
強引に押し込んだから、切れてしまっているのだ。
酷いと思う。
「痛い?ごめんね、ロックオン」
でも。
それでも、行為をやめようとは思わない。
「すぐ、良くしてあげるから」
萎えてしまった陰茎と陰嚢を一緒にもみながら、流れる涙を、唇で拭う。
だって。
あなたがいけない。と、アレルヤは耳元で、囁く。
こんなにも、ロックオンに似ているあなたが。
『ロックオン』という名で、自分の前に現れたあなたが。

 

「ロックオン、愛してる」
くちづけで悲鳴を飲み込んで、アレルヤは白い身体を引き裂いた。

 

 

ギリギリup 。アレルヤもライルも性格きっと違う(今更)。
ティエリアもアレルヤもロクに片思いなんです。そういうのが好きです。

話被ってたらすみません。