07.傾きかけた純情

 

 

ぱくぱくと、休みなく餡蜜を口に運ぶ姿を、頬杖をついて眺める。
毎度のことながらよくもまあ、そんなに甘いものが食べられるものだ。
積み重ねられた器と、向かいに座る男を交互に見る。
己が食べたわけでもないのに、胃から胸のあたりが何やらもやもやしてきた。
「自分な、お酒もいけるくちやろ?」
「お前ほどじゃねえけど」
「甘いもん仰山食べて、お酒も呑んで。――そのうち病気になるよ?」
「ぁん?」
「でも、病気になる前に、ぷくぷく子豚のようになってもうたら、どないしよ。百年の恋もさめてまうわ・・・」
男の美しい指や足首、首筋や鎖骨が肉に埋もれてしまうのは、耐え難い。
「・・・ふぅん」
木匙を唇に咥えたまま、もしゃもしゃと口を動かす。お世辞にも行儀が良いとは言えないが、何をしても下品にならないのは血統故か。
「要するに、お前に嫌われるには、ブタになればいいワケだ・・・」
「自分、余計なこと考えとるやろ。許さへんよ?太るの断固反対」
「お姉ちゃん、餡蜜も一杯、おかわり!」
嬉しそうに言っちゃって。
『ほんまに、かわいいお人』

 

「ところで」
餡蜜に飽きたのか、おはぎを頬張る相手の唇を、じっと見つめた。
一昨日前に、自分がつけた傷はほとんど治っていた。白い筋が僅かに残っているだけで、良く見ないとそれが傷であったことも分からないだろう。
「ここの、唇の傷。浮竹はんに何か言われた?」
「はぁ?隊長が何だって?」
「何も、訊かれへなんだ?」
「んなこと、訊いてくるほうが・・・って、昨日そういや、珍しいところを怪我しているなとは、言われたけどさ」
「ふーん。それで?」
「適当に誤魔化したに決まってんだろ。男に齧られたなんて、恥ずかしくていえるか莫迦野郎」
「それで納得したん?」
「したんだろ?『そうか』で、その話は終わったんだから」
「・・・なんや、つまらんなァ」
頬杖をついたまま、眼を細めて笑う。

 

そうやって、何時まで無関心を装っているのか。
どんな時も傾かず、ぶれずに純愛を保っていますと顔にはりつけて。
いつまでも他人ごとのフリをしていればいい。
『本当は、好きなくせに』
必死に口説き落として、何とか副官にしたくせに。
大切で愛しい副官殿の唇に、誰が傷を付けたのか、ぐるぐるドロドロ悩めばいい。
悩んで悩んで悩みすぎて、
地べたを這いずり回ればいい。みっともない姿をさらして、ボロボロになればいい。
あの良識人がなりふりかまわず、愛憎に狂う姿はさぞ滑稽だろう。
でも。
『浮竹はんに渡す気なんて、毛頭ないんやから』