04.君を憎み、君に焦がれる

 

 

「ねえ、知ってる浮竹ェ」
だらしなく床に寝転んだまま、顔だけを彼の方に向けた。
白い髪をひとつに束ねた清潔な姿は、時々彼が男だということを忘れそうになる。
「なんだ春水」
でも、きちんと正座して、文机に向かう背中は真っ直ぐで、いかにも硬そうで、いくら華奢でも女性とはやはり違うのだと思った。
彼が女だったら。
きっとこんな面倒臭い感情は生まれてこなかったに違いない。
「僕さ、実はきみのこと物凄く好きなんだよね」
「そうか」
書き物をする彼の背中は動かない。
一世一代の酷薄も、軽く右から左へ流される。
こういう人なんだよね。分かってるんだけどね。
それでも君から離れられない自分の女々しさが、時々嫌になる。
でもね。
「同じくらいきみのこと、憎々しいと思ってたりするんだよね」
「・・・・・」
彼が、手を休めたのが分かった。
ゆったりと首をめぐらせて、向けられた真摯な碧の双眸に、彼の一挙手一投足に、指の先までぞくぞくと痺れる。
こんなにも彼に蝕まれている。
また「そうか」って流されちゃったら、ちょっと嫌だけど。「分かった」って肯定されちゃうのも、とても寂しい。

 

けれど。
ただひとこと、彼はくそ真面目な顔で答えた。
「――知ってる」
と。

 

ああ。本当に、きみってそういう人だよ。
分かってたんだけど。分かってたんだけどね。
僕には到底及ばない場所に、きみは立っていて。そんなきみに僕は焦がれている。
密やかで深い憎しみと共に。

 

 

 

 

 

彼らのためにあるお題かなと。
若い頃はもっとドロドロしてたと思うんですが、年を取って些か諦めモードに入りつつある楽さん。
「正面から、正々堂々卑怯(性悪)」なのが浮さんで、「背後から、なりふり構っていられない正義」なのが楽さんだなーとここんと頃のWJ読んで思ったです。