20. 終わりを見続けてる

 

 

 

つらい。

と、浮竹は見舞いに訪れた男の、胡坐をかいたつま先に零した。
「死にたい。何もかも、終りにしたい」
発作を起こすたびに味わう血の味にも、少し風邪をこじらせただけで死線に追いやられることにも、そもそも、虚と戦うことよりも頻繁に持病と戦うことに、もう疲れた。
だから、死にたい。
今一度同じ科白を落とせば、男は暫く間を置いた後、はっ。と鼻先で笑った。
あからさまに侮蔑を含んだ冷淡な態度は、人前で滅多に感情の変化を表に出さないこの男には珍しかった。
それだけ遠慮のない関係だから吐露した言葉だったが、どうやら相手にとっては地雷だったらしい。
「誰よりも『死』に怯えている君が?死にたい?」
どす黒い怒りを隠そうともせず、目を細めて京楽は笑う。
「自分で死を選ぶ度胸もないくせに、よく言うよ」
「・・・・・・・・・」
「で?自分で死ねないかわりに、僕に殺して欲しいって?莫迦莫迦しい。これっぽっちも死にたくなんて、ないくせにねぇ。浮竹ぇ、君ほど身勝手で、君ほど生に執着している輩なんてこの瀞霊廷にはいないよ」
そう吐き捨てて、浮竹の話など、最早まともに取り合う気などないと、京楽は持参した徳利から直接酒を呑んだ。
ひどい態度だと思った。
長い年月、苦楽を共にしてきた友ではないのか、自分は。
「本当に辛いんだ。少しぐらい話を聞いてくれたっていいだろう」
「それが、身勝手だと言うんだよ」
だんっ。と、重そうな徳利を床に叩きつけるように置いて(こういう所作も珍しい)京楽は言った。
「君が辛いのは病じゃない。偽善者のふりを続けることが、だろう」
今度は浮竹が気色ばむ。
「俺が、偽善者だって言うのか」
「気が付いていなかったのかい?だとしたら、君は自分のことを知らなさ過ぎる」
友の、深い影の落ちる眼を浮竹はねめつける。
互いににらみ合ったまま、尖った険悪な空気だけがどんどん重くなっていく。
先に視線を外したのは浮竹だった。
何のことはない、長らく臥せていた身体がついてこなかったのだ。
ふう。と浮竹は長い息を吐く。
溜息と共に吐き出したかったのは、胸に溜まる虚ろ。
京楽の言うとおり、怖くて自分で死を選ぶこともできず。
このまま。
何時まで自分は生きるのだろう。
大切だったモノをなくしながら、何時来るかもしれない終りを、待ち続けるのだろう。
それは、耐え切れない深い罪だと、思った。

「辛いのは、君だけじゃないでしょうが・・・」
酒をまずそうにあおっていた京楽の詰まった声が、した。