16. 許さないから

 

 

「どうしたんだ?体調がすぐれないようだが…」
珍しく執務室に陣取った上司に、満面の笑顔を向ける。
「いえ、普段と何ら変わりません。お気遣いありがとうございます」
「…そうか?」
訝しむ上司に、それでも笑顔を崩さない。

 

ああ。何て生き辛い。
オンナは毎日綺麗で笑顔でいなくちゃいけないのかしら。
少しの寝不足も、深酒も許されないの?
多少顔が浮腫んでいたって、眼が腫れていたって、何だっていうの?
仕事に支障はまったくないのに。
男なら「仕方ない」で許されることも、オンナは許されないの?
どれだけ一生懸命仕事をしても、結局オンナは笑顔でなきゃ否定されるの?
能力なんてまったく関係ないじゃない。
ああ。何て莫迦らしい。
大体、誰のせいでこんなことになっていると思っているのかしら。
「…何か、悩んでいることがあるのなら、言って欲しい。いつでも相談にのるから。あ…、俺に言いにくいんだったら、その、卯ノ花隊長に」
オンナ同士だから、余計言えないこともあるってことを、いい加減男は分かったほうが良いと思うの。
何百年と誰に頼ることもなくひとり身を貫いてらっしゃる卯ノ花隊長に、どう相談したらいいのかしら。
私が教えてほしいくらい。
「――夫婦のことですので」
ああ。本当に鬱陶しい。

 

「そっ、それは…その、すまない…」
「いいえ」
いっそ、言ってやろうかしら。
『寝惚けた夫に、違うヒトと間違えられましたって』
そうしたら、目の前の上司はどんな顔をするのだろう。
紅くなった顔が急速に色をなくしていくのを眺めながら、残酷な妄想に浸っていた。

 

 

 

 

眠れなくて翌朝出勤した時の会話。
都さん黒いです。←そりゃそうだ。
死神って結構男社会だから、女のヒトは大変なんだろーなと勝手に捏造。