12. 絡めた小指に

 

 

「今日は、嫌がらへんのや」
抵抗もせず、おとなしく自分に組み敷かれた相手の指を、市丸は形の美しさを確かめるようゆうるり絡めとる。
ひとつひとつの節や筋の造形美は、まさに『神業』だ。
筋の張りに、関節の凹凸に触れて欲情するたびに思う。
僅かにひらいた男のくちびるが、行灯のあかりにうすく濡れているのは酒のせい。
自分と、もちろん相手の飲んでいた。
普段なら、結果は同じだけれどそれなりに『抵抗』するのだが。
今夜は恐ろしいほど容易く、くちびるを許したものだから、どうも勝手が違う。
互いに酒にのまれるほど飲んではいない。
おそろしいくらいに澄み切った水の底と同じ色と深さをした眼を、市丸は溺れることを望んで覗き込む。
この男の瞳の奥、『志波海燕』の身体の内側にみち満ちる蒼く冷たい水に。
「そんな気分やった?」
「かもな」
気だるげに答えて、男はふうと小さな息を吐く。
降りていく瞼に誘われて、くちびるを重ねた。
実に珍しいことだと思う。
十年に一度、いや、五十年に一度?

 

「明日は槍でも降るんかな・・・」
「・・・なんだと」
「いややな。何も言うてへんよ」
睫毛の奥でにじむ蒼い眼に、市丸は最上級の笑みを見せた。

 

 

リハビリ中。
なんてこった。本誌の市丸が切ない。