11. 荒野で君を見失った

 

 

「――しかし、みんなどこに行ったんだろうね。時間も場所も、あってるはずなんだけど」
三日間の現世研修中。
この研修が無事に終われば2人は六年生へと進級する。
ざくざくと枯れた草をふみわけ、ふと顔を上げた京楽は目を細めた。
「きれいな夕焼けだねえ。真っ紅だ。……でもまあ、最悪はぐれても、野営用一式は出発の前にくすねておいたから大丈夫だよ。ちゃんと2人分あるし」
ぱんぱんと、背負った荷物をたたく。
「問題はさ、君よく食べるから、持ってきた食料が足りないかもってことなんだよね。そうしたら現地調達でしょう?僕、兎とか鴨とかさばけないから、君やってよ?」
ねえ浮竹?
と、振り返った場所に親友の姿はなく。
「……え?」
気が付けば草原にひとりきり。
『うそだろ……』
つい先刻まで、後ろをついてきていたはずなのに。
実は随分まえからひとりだったとか?
そう思ったら、急に足元からぞくりと寒気が這い上がってきた。
『え?いつからいないの?』
異様なほど紅く染まった西の空が、不安をかきたてる。
「浮竹?!うきたけ!」
名を呼んでも、返事はなく。
紅く染まる世界にひとりきり。
どうしよう。
『どうしよう……どこまで、一体何処まで戻ればいいんだ』
来た道を戻ろうにも、動揺と焦りで完全に方向を見失って。
一歩も、動けない。
『浮竹、浮竹』
自分が、他の誰でもない自分が、彼の霊圧を見失うなんてありえないと思っていたから、二重の衝撃だった。
それほどに、そばに、ずっと一緒にいたから。
確かに、もともと彼は霊圧を隠すのがうまい人ではあったけれど。
こんな、完全に見失うなんて初めてで。
『僕の知らないところで怪我なんてしてたら、どうしよう』
どうしよう。心配で泣きたくなってきた。
暮れていく世界に、京楽は絶望的な思いで、友の名を叫んだ。

「うきたけーー!」

 

「おーー。お待たせ」
すとん。と、瞬歩で現れた彼は、少し土ぼこりで汚れているものの、まったくいつもとなにひとつ変わらない彼で。
「うううううううどどどどどどどど」
「どうしたんだ春水?話すのが不自由になっているぞ?」
『君のせいだよ!』
心の中で叫んで京楽は深呼吸を二度して、心を何とか静めると、笑顔の浮竹を非難めいた強めの眼差し(自分比)で見つめた。
すると、浮竹が背中に何かを背負っているのを発見する。
彼の背丈とほぼ同丈の、立派な……
「……浮竹、その、背中のものは……」
「喜べ春水!牡丹鍋を食べさせてやるぞ!」
「牡丹、鍋ですか……」
「いやな、向こうの山の方に気配を感じて、行って見れば、見事な大物だったものだから、これは春水はじめ、組のみんなにも是非食べさせたいと思ってだな」
ふらりと京楽の身体が傾いで、その場に崩れるようにしゃがみこんだ。
後は聞かなくても大抵分かる。
友人思いの浮竹青年は大猪と格闘の末、見事仕留めてきたわけで。
わーわーぱちぱちぱちぱち。
何処からともなく声援と拍手が聞こえてきそうだ。
『そりゃ分からなくても仕方ないよね……狩りの時は気配も霊圧も消してるしこの人』
食い意地の張った友人は、対虚戦の時よりも真剣だったりするのだ。
だがしかし。
「そんなわけで――。どうした春水?疲れたのか?」
「……あ、いや、そういう……あ、うん。確かに疲れてるけど……」
「そうか!じゃあ早速こいつをさばくとするか!しかし、どこかに移動しないと、ここじゃあまずいな」
「浮竹」
「なんだ?」
親友の袴をぎゅっとつかんで、顔を上げる。
「お願いだから、いなくなるときはひとこと声をかけてってよ!」

僕ほんとうに心配したんだからね!

 

 

 

 

 

 

 
あのあと。
「あーー、ごめん、忘れてた★」
「ばかっ!浮竹のばかああ!」

「牡丹鍋食べさせてやるから、かんべんな!」(白い歯がきらり★)
なんて会話が繰り広げられるのではないでしょうか。

動物どころか魚すら素手で触れない楽さんと、真逆な浮さん。なんたって楽さんおぼっちゃんだからさ。浮さんは病気さえなければ、この人が次期総隊長。なたくましさ。こんな院生なふたりも楽しいな。でもカプだと京×浮だよね。へたれ攻ってやつですよ。男前受ってやつですよ。